楽しさを共有しながら、必要な経験をしていく

──実際に設置してから、数か月たちましたが、障害を持つお子さんにとって、このような遊具で遊んだり、体を動かしたりすることは何かしら良い影響があると思いますか?

菊澤:障害を持つお子さんって、身体のバランスが悪いことが多いんですね。公園に連れていっても、普通登れそうなところが登れないとか……。ネット遊具は、そういう子が日々楽しく遊ぶとか、立つバランスなどが育まれるなあと思いました。特に訓練するということではなく、遊びの中から養われるというか。

山﨑:ネット遊具の上を歩いてみればわかるんですけど、不安定なだけにロープをつかんだり、踏ん張ったりと身体を動かすために色々なことをしなくちゃいけない、その動きが自然と身につく感じですよね。足の裏だけじゃなく、身体全体のバランス感覚を刺激してくれると思います。

守山:子供の遊びの価値のひとつとして、楽しさを共有することが挙げられるんですが、みんなで一緒に遊べるネット遊具はまさにその点を実現しています。また、のぼる、とぶ、ねころがる、ぶらさがるなど、自由自在な遊び方ができるので、創造力を引き出したり、体力差があるお子さん同士でも遊べるので協調性も育まれます。

自由に遊ばせるには、大きな視点での見守りが必要

──遊ばせる時に、注意しなければならない点はありますか?

橋本:遊具全般に言えることですが、作っているのは大人だけど、使うのは子供ですよね。障害を持つ持たないにかかわらず、子供は何をするかわからないということを踏まえて、遊びと危険の境目を見極められる大人がフォローすることが必要ですね。

山﨑:運動神経ある子って、柱を登って上に行こうとしちゃうんですよ。そのときにやっちゃだめ、と強制するんではなくて、危ないことなんだよ、って教えてあげることが大事だと思います。やみくもに行動するんじゃなくて、ちゃんと考える事が大事なんだよ、そうじゃないと遊べなくなっちゃうよというのを教えてあげないといけないですね。

菊澤:そもそも、何のために「遊び」が必要なのか、ということですよね。社会の中で生きていくために必要な経験をさせるためなんですよ。
実際には、遊具で遊ぶだけでなく、日常の動作一つ一つの中から経験は生まれるんです。たとえば、ちょっとつまづいたり転んだりすることで、段差は危ないんだとか、ちゃんと見て歩こうと気づいくじゃないですか。
でもね、今、そういうことを学ぶ機会が子供たちの中から本当に消えていっているんですね。どこで転んでも痛くないようなグラウンドとか。

山﨑:ちっちゃいケガって子供の時に本当に大事な経験なんですよ。「包丁いじったらちょっと指を切っちゃった」みたいな、命にかかわらないような。そういう経験の積み重ねから、様々なことを学ぶはずなんだけど、そこを守ろうとしちゃう。学校の教材を見ても何も失敗しないように出来上がっていたりとか……。
ちっちゃいケガや危険を経験しないと、次起こる危険が本当に大きな危険になりかねない。だから、ちっちゃいつまづきや喧嘩だったりとか、すごく大事だと思うんです。ちっちゃい時にやっていれば、どれだけそれが痛いことなのかってわかるから、大きくなって本当に大きな喧嘩はしないし。

菊澤:男の子の喧嘩って取っ組み合いするんですよ。でもほうっておくんです。そうすると優劣が自然とできるんですよ。体が大きい子が勝つんですよ。頃合いを見て「もういいでしょ、やめようよ」っていうんです。そういうことをする過程というのが男の子には大切なんです。そうやって育つんです。最近は、周りが守りすぎて、男のコが男になれないような社会だなって思うんですよ。女の子の方は複雑だから難しいですけどね(笑)
だから、こういった遊具は、そういう想いを受け止められる大人がいる場所につけないと生きないなあって思いますね。 危険があるからおもしろいんであって、危険丸ごと楽しめる、そういうおおらかさも必要だと思います。鉛筆ひとつとってみても、使いかあを間違えたら刺す凶器にもなるし、正しい使い方をまわりにいる大人や関わる人が教えないと。

守山:そうですね。子供のうちに必要な経験をさせながら、協調性や危険に対して学ぶということは大切な経験だと思います。楽しさの中で自分を守る術を学ぶというか。私たち遊具メーカーは、「遊び」の心髄はしっかり残しつつ、安全性にも配慮された遊具を作ることで、豊かな社会を育むことに貢献できればと思います。