他にないものだから意味がある
統一感と「らしさ」のある空間づくり

──遊具を作ったことで、本来の事業に変化はありましたか。

社長:本業の住宅建築の方でも、子どもに関する収納の提案などしています。アンバルの1階にあるような可愛らしい本棚をつけたいんです、という方もいらっしゃいますね。
あとは、子どもの事業をすることで、信頼感というものは得られているんじゃないかなと思います。

新規事業を考えるにあたっては、社内でいろんな話がでました。コインランドリーとか、唐揚げ屋さんとか。選択肢として他もあったんじゃないかと今も言われます。
でも、たとえば車で同じ一千万円出すとして、ベンツと珍しい車のどちらを選ぶか考えてみてください。普通はベンツを選ぶでしょう。ところが、ベンツが走っていても誰も振り向かないけれど、珍しい車なら振り向く人の率は高い。
アンバルのような施設はこのエリアにはなかったものですが、どこにでもあるものでなく、他にないものだから意味があると思っています。

子どもの事業って、一人が大きくなったら次の子が来て、また次へと、ずっと続いていきますよね。育っていった子を持つ人が小さい子のいるご家族にアンバルという遊び場をすすめてくださって、次の新しいご家族が増えていって、目まぐるしく変わりながら続いていく。
今後アンバルを知る人がどんどん増えて、建築のほうにも、家を建てたいという人が流れてきてくれたらと思います。

──岡部について、依頼した理由や決め手は何でしたか。

社長:遊具メーカーをネット検索で探して何社かピックアップしたんですが、問い合わせへの回答が、岡部さんからのものが一番内容が詰まっていました。あと、回答してくださったのが小野さんで、ここ小野市と同じ名前の方なんだと思って。

小野:小野市は「そろばんの町」というのは知っていたんですが、自分と同じ名前の小野市というところで仕事がしてみたくて。初めて訪ねていって、仕事をやらせてくださいと(笑)

社長:問い合わせをしてすぐ来ていただいて。

奥様:東京からわざわざお越しいただけるなんて、びっくりしました。
話をさせていただいて、すごくこちらの発想を汲んでくださるというか、楽しいもの、良いものを作りたいという熱量が一緒というか、温度差がなく一緒に作ってくださるような感じがありました。

小野:最終的には建築のフレームは板井さん任せで、遊具ネットだけ岡部でやらせていただきましたが、最初はすべて含んでいて、相当の金額になるとお伝えしたと思います。

社長:もう、それを聞いて「無理やな」と思いました(笑)

奥様:ほんとに、子ども遊具をあなどっていたというか。計画時に金額を全然調べていなかったので。岡部さんじゃなくて他のメーカーですが、ボールプールのボールだけで何百万もするんですよね。

小野:遊具が高額になるのは、思った以上に人件費がかかっているからなんです。製造するのに工場のラインで大量に作れるわけではないので、滑り台も人が手で溶接するし、何でも人の手がかかる。だから、絶対に「高い」と思われる金額になってしまいます。

奥様:安全性と信用を考えたら、そうなってしまうんですね。

小野:一時期遊具も安い外国製品が入ってきていましたが、精度にかなりの誤差があって、今はほとんどなくなりましたね。壊れやすくて事故になっているものもあります。

──制作過程で印象に残っていること、エピソードなどありますか?

正野:最初に奥様からいただいたイメージのパースが、大きな滑り台が天井から出ていて、すごく楽しそうだったのが印象的でした。基準的には難しくてできそうにないかなと思いましたが、できるならやってみたいなあと。とても面白そうで、素晴らしかったです。
それと、打ち合わせをさせていただいた時、こうしたい、ああしたいというお話を聞いていて、奥様の熱量をすごく感じました。

奥様:ここができるまでは、まったく遊具について知らなかったんですよ。
もともと、子どもには、いろんな良いものを吸収して欲しいなというのがあって。そこから情報を見ていくようになって、どんどん、こういうものがあったらいいんじゃないかと考えるようになりました。
たぶん一番最初にお願いしたときの構想は、建物全体を遊び場にしたいというものでしたよね。

社長:やりたいことと、予算とのバランスが難しかったですね。

奥様:言いたい放題で、インパクトがないとか、ほかにあるものはつまらないとか、すぐ言ってしまうので(笑)できるできない、いろいろ皆で言い合いながら考えて。最初言っていたのとはがらっと変更してもらう形にはなりましたけど、満足いくものが出来ました。

奥様:あとは、ネット遊具のことではないのですが、おもちゃや使うものを選ぶのに、「うちのカラーにあうかどうか」をしっかり考え統一感を大事にしています。
どんなに良いおもちゃがあっても、それだけポツンと違うものになったり、変に妥協してしまうと、せっかくデザインの良い建物を作ってもだんだん崩れていってしまうかなと。
スタッフの制服ひとつとっても、すごく悩みました。

足立:遊具施設は制服がポロシャツとチノパンというところが多いと思うんですけど、制服に関してはもう悩んで悩んで。相談してもみんないろんなことを言うので。

奥様:選んだのはホテルのカフェスタッフのようなシックなデザインで、生地にコーヒーの廃材を使った、SDGsを意識したものです。アンバルも、小野市のSDGs認証をとっているということもありますし。

社長:でも「それカフェやん」みたいな、反応ばっかりでしたね。

足立:一般的にはそういう意見が出ると思うんですけど、コンセプトを考慮すると、こういうところにいきつく。やっぱり、建物もそうですけど、他にはないということが一つのコンセプトなんだと思います。