「みんなで未来のインクルーシブを共創する」
子どもたちを育てるあそび空間づくりが富山駅から始まります!
インクルーシブパークラボ「ごっこぱーく」スペシャルインタビュー
JR富山駅北口に2023年11月に開園した「ごっこぱーく」は、小学生以下を対象とする遊具、広場等を備えた、パークエリアです。株式会社岡部では、インクルーシブパークラボというコンセプトのもと、「ごっこぱーく」の企画から共同参画し、遊具制作と施工を担当しました。
企画・運営会社である富山ターミナルビル株式会社代表取締役の水田整社長、岡部との共同研究にご協力いただく富山大学教育学部の澤 聡美先生、株式会社岡部 代表取締役の岡部竜一社長に、「ごっこぱーく」と遊びのインクルーシブ空間について、お話しをうかがいました。(以下、敬称略)
自分たちで遊びを発明していた空き地のような
子どもがのびのび自由に遊べる空間を創りたかった
──「ごっこぱーく」を開園することになった経緯についてお教えください。
水田:富山ターミナルビル株式会社では、富山駅北口のJR西日本所有地を借り受け、暫定的な利活用として「牛島パークフロント」の整備を行なってきました。
その一環として、この駅前の一等地を何に使おうかと考えた時、できるだけ斬新な使い方にしたいと思い、今回インクルーシブラークラボ「ごっこぱーく」を開園するに至りました。
──子どもの遊び場にしたきっかけはなんですか?
水田:私の幼少の頃、もう50年も前のお話になりますが、広島県の片田舎に住んでいました。その頃は開発されていない空き地がいっぱいあって、年子の弟と二人でよく遊んだものです。
地面に自分たちで線を引いたり物を置いたりして、そこを基地にしてみたり。あるいは野球をやったり、鬼ごっこをしたり。私と弟は、自称ではありますが、ある意味で遊びを発明する天才だったのかもしれません。
今は、そのように遊びを自ら作り、いろんな人を巻き込んでいくようなことが、できにくい世の中になったと思います。少子化問題が言われ、子どもが増えて欲しいけれど、なかなか難しい。そんな状況の中で、子どもたちがのびのびと開放的に遊べる空間を作りたいという思いが、このパークの構想につながりました。
企画を進めていた時期に、初めて岡部社長とお会いする機会を得て、こういう遊具に取り組まれている会社が富山にもあることを初めて知りまして。依頼することになってから半年間で一気に、みるみるうちに開園を実現することができました。
通常ですと、こういったものを作り上げるのに2年ぐらいはかかりますので、奇跡的な速さで出来たことは、岡部さんのご協力あってのことと感謝しております。
岡部:私たちは全国で遊び場づくりに協力をしている企業ですが、じつは富山の方に知っていただく機会がなかなかありません。今回、水田社長からお話をいただき、この事業に協力できたことは本当に光栄です。「ごっこぱーく」は、水田社長の強い強い熱い思いがあり、私たちも非常にスムーズに進めさせていただくことができました。
日頃、全国でいろんなあそび場を作っていますが、こういった県の玄関口となる駅前で、お子さんが集える場は、なかなかありません。
地域が元気になるためには、お子さんの元気な声が響き渡る場というのが、すごく大事だなと思っていますので、それが富山で実現したのは本当に素晴らしいことです。
──澤先生は、岡部さんと子どもの遊びについて共同研究に取り組まれていらっしゃいますが、今回の「ごっこぱーく」をご覧になって、いかがでしたか。
澤:このパークは、遊具は限られているかもしれませんが、社長さんお二方の思い、会社の方々のいろいろな思いが詰まった遊び場として、これから子どもたちと一緒に作っていく夢があると思います。
私は富山大学教育学部に所属していますが、教育学部の学生とともに、専門としている運動なども取り入れながら、この場で子どもたちが楽しくワクワクできるような環境を一緒に作っていけたらと思っています。
思い切りのびのびと遊ぶための前提になる安心
そのための安全面に配慮された空間づくり
──施設全体についてお尋ねします。お子様の対象年齢としては小学生以下とお聞きしていますが、どのような施設になっているのでしょうか。
水田:通常の公園では、小さなお子様を遊ばせる際に、目を離すということは難しいと思います。「ごっこぱーく」では基本的に、親御さん1人につきお子様2人までとして、見守りをお願いしているのですが、パークは柵をしつらえたクローズの環境になっています。お子様が外に飛び出さないように、また、外部からに侵入者がお子様に危害を加えるというような危険が極力起こらないよう、配慮された空間になっていますので、安心していただけるポイントかなと思います。
それから、全面に人工芝を敷いてあります。転んだら多少擦り傷ができるかもしれませんが、大きなケガに繋がらないよう、安全面も岡部さんに考えていただきました。
安全に配慮された空間の中で、お子様には思い切り自由にのびのびと遊んでいただきたいと思います。見守りのためのベンチなどもありますので、親同士のコミュニケーションや休憩場所としても、ご活用いただけると思っています。
子どもたちのイタズラを外からも覗ける!
外に面した広い落書きスペース
──設置遊具についてお聞きします。まずは、入口を入ってすぐの場所に、大きな円形のお絵かき用スペースがありますね。
水田:ここは、子どもの頃、道路に落書きを書いて遊んでたことをイメージしたスペースです。
今となっては道路に落書きなど到底できる環境ではなくなっていますよね。そういうイタズラが心置きなくできるスペースとして、岡部さんに直径5メートルある広い落書きエリアを作っていただきました。
インドアで企画されたような落書きスペースはあると思いますが、青空のもと落書きをするというのは、なかなか貴重な体験になるんじゃないかと思います。
澤:今の子どもたちは、大人が作った仕組みの中で遊ぶことに慣れていて、自由になると、最初はどう遊んでいいかもわからないかもしれません。けれど、そういう自分で何かを作っていくことは、これからの教育において、ものすごく大事だと思うんですね。
いたずらしながら、遊びながら、与えられたものでなく自らが作る。やる気をもって遊び続けることができたら、学びにも繋がると思います。
──まず最初のこの位置を落書きスペースにしたのは、何か意図があったのでしょうか?
水田:この場所を落書きスペースにしたのは、じつは、できるだけ子どもたちがいたずらをしている様を外から皆さんに見て欲しいと思ったからなんです。入口前のスペースは、椅子とテーブルがあったり、日によってはキッチンカーが並んだり、人が集まる場所になる予定です。
皆さん遊具で子どもが遊んでるところをご覧になることはあると思うのですが、こういういたずらを間近で見る場はなかなかないと思います。そこで、あえて一番目立つところ、いろんな方々が通るところから見える場所に、おかせていただきました。
大人気のネット製トランポリンには
初めての子でもチャレンジできる工夫がある
──次の遊具はネット製のトランポリンですね。今回の遊具は移動遊具がベースになっているものが多いと聞いています。こちらも移動できる遊具ですか?
岡部:そうですね。こちらのパークは3〜5年間の限定の施設と聞いていまして、遊具も移動遊具をベースに考えています。この先にある大きな複合遊具「アルペンスライダー」や、三角ピラミッドの遊具なども、いろいろなイベントで活躍してきた人気の遊具を、化粧直しして設置しています。
このネットトランポリンは過去のイベントでもお子様に大人気で、昨年の福井県のイベントでこれを設置しましたら、イベント中の2日間とも行列ができたほど。やはりトランポリンは人気がありますね。
もともと岡部の得意としてるネット遊具も、不安定でちょっと怖さのあるところが、お子さんのチャレンジ精神を引き出すには良い遊びなんですね。この遊具では、それにさらに飛び跳ねるという要素が加わっています。
通常のバネのスプリングでできたトランポリンだと跳躍しすぎるところを、このネットトランポリンですと、そこまで跳躍しませんので、安全性も高くなります。まだ全国的には少ない遊具ですね。
澤:ネットが小さかったり大きかったりの組合わせで、ちょうどいい感じにできているんですね。この技術がすごいですよね。
以前、トランポリンがあまりに揺れすぎて、気持ちが悪くなった子がいたという話を聞いたこたがあります。たぶん、そういうことも踏まえて工夫された上での遊具ですよね。
周りも伝い歩きできるようになっていて。スケートリンクみたいに、初心者は周りをつたいながら、ちょっとはずんでみる。そんなチャレンジをする様子がみられたらいいですね。
水田:こういうところが、岡部さんの遊具はすごいなと思うんですよね。
昔、私の娘もトランポリンに乗ったことがあるんですが、始めて10秒ほどで怖くて泣き出して、それ以来、トランポリンに乗らなくなったんです。
普通のトランポリンだと怖くてもう無理となってしまうところ、これなら掴まりながらできるから、どんなお子さんでもチャレンジがしやすい。しかも、揺れすぎて酔うこともあまりないと思うので、そういうところが本当にいいなと思います。
──その先にある、穴のあいたチューブのような、不思議な遊具はなんでしょう?
水田:遊び方は限定していないですが、一方から入って出てくる遊具ですね。大人だと出られなくなりそうで怖いですが。(笑)
岡部:狭いところに入っていくのって、子どもは好きですよね。
お子様によっては、けっこう人の視線の気になる子もいるので、一時的なシェルター要素もあります。こういったインクルーシブ要素をもった遊具は、海外ではよくありますね。
澤:この中に隠れていると、視線が遮られてちょっと落ち着くのでしょうね。
元気に遊んでる子もいれば、ちょっと心配な子も、ここで休憩ができる。お子さんの個性に合わせて自由に、想定外のいろんな使い方が出てくると思いますね。
──ゴールが見えるのはボール遊びのできるエリアですね。
水田:今回、球技のエリアも作ったのは、一般の公園では普通にボール遊びができる環境が少なくなっていて、何かしら球技ができるようなスペースが欲しいなと思ったからです。
それから、幼いお子様にとって、他学年の子と混ざりあって、こういうボール遊びをする環境って、本当に少なくなっていると思うんですね。
ボール遊びって、同学年の子とはそれほど楽しくなくても、意外とお兄ちゃんお姉ちゃんたちと遊ぶと、すごく面白い。そういう、他学年の子が一緒に遊ぶことで何か生まれるようなことができたらいいなと思っています。
ボールは弾まないものを中心にいろんなボールを選んでいるので、本当に小さなお子様から、遊んでいただけます。
──色んな年の子が混ざってうまく遊べるのか心配という声はありませんか。
澤:そうですね。でも、最近の大人は、なんでも先に手出しをしてしまうところがあるように思います。
せっかく安全に配慮された空間を作っていただいたので、よっぽど危険なことがない限り、ちょっと見守りながら、子どもたちの自発的な動きが出てくるのを待つというのも大事かなと思います。
シンボリックな広場スペースや小高い丘は
子どもの創造を引き出す自由な遊びの場
──パークの中央にある不思議な模様のエリアはどんな場所でしょうか?
水田:ここは、私のデザインさせていただいた、「ごっこアイランド」というゴムチップのエリアです。
このパークでまず何をしてもらおうか考えたとき、やっぱり思いっきり走り回ってもらいたいな、と思いまして。走る遊びといえば、鬼ごっこですよね。
施設を「ごっこぱーく」と名付けさせていただいたのも、この「ごっこ」からきています。
鬼ごっこや、この模様を使った十字鬼、ひょうたん鬼など、自分たちでルールを作って、さまざまな鬼ごっこができたり、ただ自由に駆け回ったりもできます。
それからマリポンという遊具、今回は芝生を海に見立てて亀の甲羅がぽっこり出ている「ぽっこりカメポン」と呼んでいますが、これも含めて全体を、ぐるぐる周遊できるように作っていて、そこをつたって逃げ回るといった鬼ごっこもできるようになっています。
ある程度使い方を想定はしていますが、子どもたちには自由にいろんなルールを決めて、作って、想像して、遊んでいただきたいと思って作ったエリアです。
できたらここで、知らないお子様同士が集まって鬼ごっこをするような風景が見られたらいいなと思っています。
それから「ごっこアイランド」の手前右手になるところ、小高い丘になっているのは「奇跡の丘」と名付けた場所です。
特に幼児のお子様は、いろんなところによじ登ったり、そこから駆け下りたりして足腰が鍛えられ、運動能力上がっていきます。何よりこういう坂に登るのが本当に好きです。
じつは、この坂で幼児のお子様がどうやって遊んでくれるのかが、私としては一番楽しみです。
触覚を刺激する「砂遊び」の機会をもってほしい!
インクルーシブ視点でできた砂場エリア
──パークを左から一周して最後にあるのが砂場ですね。横にあるキッチンのような砂場の台はどういったものでしょうか?
岡部:入り口の落書きエリアにある立て黒板もそうですが、公園にはいろんな方がいらっしゃいますので、車椅子の方でも一緒に遊びやすいような高さの砂遊びセットを入れさせていただきました。
水田:砂場のエリアには、インクルーシブ対応の砂場セットを、岡部さんのオリジナルで作っていただきました。ままごとハウスもあります。
ここを「砂場キッチン」と名付けているのですが、いろんな料理を作ったり、おままごとをしたり、砂場自体をキッチンにして、手を使ったり、道具を使ったりして遊んでいただこうと思っているエリアです。
澤:最近、小学校の先生の困り事で、姿勢の悪さや体幹の弱さに加え、子どもの筆圧が弱いというのがあるそうです。コロナ禍で、触るとか触覚を使う機会が少なくなったせいもあるのでしょうね。
子どもにどんな遊びが必要かを考えると、触覚を刺激する砂遊びは、すごく影響が大きいな、と思うんですよ。
以前、砂場のない公園で調査をさせてもらった時に、子どもたちが何か道具を持ってきたり、近くの花を摘んできたりして、ごっこ遊びをしていたんですね。それを見た時に、やっぱり、砂場のような感覚遊びができるところって必要だなと思ったんです。
──そういえば、特にこういった管理されたパークでは、あまり砂場をみかけませんね。
澤:砂場は管理がなかなか大変らしいんですね。でも、子どもにとっては非常に重要な、今の子どもにこそやってもらいたい遊びです。
こちらの砂場も、きっと管理していくのは大変だと思うのですが、設置してくださったのは本当に素晴らしいと思います。
これからの遊びを、街を発展させる
「ごっこぱーく」を目指して
──これからの「ごっこぱーく」に期待することをお教えください。
水田:富山市ではコンパクトシティなまちづくりが進められています。その軸となる公共交通機関を使って駅前に出てみると、確かに近くの牛島公園にそれなりの遊具もあるのですが、あまり活用されていないというのが現状です。
富山駅は、お子様連れの方のご利用がある中で、今までは子どもが長い時間遊べるような場所が不足していました。このパークで、駅前に足りていなかった機能を充実させることができるのかなと思っています。
また、富山ではお祭りが至る所で自主運営されているように、コミュニティーが強い地域が多いんですね。その点、富山駅周辺エリアは、コミュニティーが少し希薄な部分があります。
この場所に遊びに来て、お子様を通じて縁ができていく。開催するイベントなどを通し、この周辺に住んでる人たちが集まって顔見知りになっていく。
「ごっこぱーく」を駅周辺エリアのコミュニティを回復する場にしていただけたら、より良い街づくりができていくのかなと思っています。
澤:このパークの中には、触覚を刺激するような遊びがたくさんあるので、さまざまな遊具の中で、子どもたちに多様な体の動かし方を経験してもらえたらと思います。
子どもはみんな、運動が苦手な子でも、遊んでみたいという夢を持っていますが、遊びや人との関わりの経験不足から、うまく楽しく遊べないことがあります。
もしかすると、ここで遊ぶには、ちょっと我慢が必要な時もあるかもしれません。なかなか遊びがスタートしなかったり上手に遊べなかったりする時に、親御さんや大人が直接関わるのでなく、ぜひ見守ってあげてください。
子どもたちが自発的に、みんなで遊びを作っていく場が、この「ごっこパーク」でできたらいいなと思います。
岡部:今、インクルーシブが教育の場、遊びの場ですごく重要視されています。
「ごっこぱーく」は、インクルーシブパークラボと付けさせていただいたように、色々な子どもたちが個々の能力や興味に合わせて、自由に遊び・学び・コミュケーションし、成長する機会を得られる場ととらえ、空間づくりにご協力させていただきました。
いろんな遊具の組み合わせによって、いろんなお子さんが関わりをもって新しいコミュニケーションが生まれる。今回はそのきっかけになる遊具をご提案しています。
岡部では、こういったお子さんのコミュニケーションや成長意欲に働きかける遊具作りを目指していまして、このパークはその形を表現できるひとつの場になったのかなと思っています。
これから「ごっこぱーく」で、どんなふうに子どもたちが遊んでくれるのか、私たちも楽しみに見守っていきたいと思います。またその中で課題を発見し改善していきながら、今後の遊び空間づくりにフィードバックしていきたいと考えています。
水田:インクルーシブパークラボ「ごっこぱーく」は、“ラボ”とあるように、まだまだ未完成の場です。お子様の遊び方を見ながら発展させたり、課題を克服したりしながら、より良い遊び場になっていく。あるいは、ここでお子様の遊びについての新たな研究の場にも使っていただける場所になれたらと思っています。