About Oakbe

「子どもの遊び」の研究

岡部の進めている産学協同研究のプロジェクトや、子どものあそびの研究についてご紹介します。

あそびで、そだつ。

夢中であそんでいるうちに、いろんな能⼒が刺激されて伸びていく。
だれかと遊ぶことで、ひとりではできない気づきを得ていく。
こどもはあそびを通じて成⻑していきます。

遊具メーカー岡部のあそびの研究イメージ

岡部がめざす「あそびの空間」とは

岡部が目指すのは、あそびによって人間力を高めるための体験ができる、イノベーション創出の場です。
子どもたちが自分の「できること」に気づき、自らの可能性にわくわくする経験をして、自分の力を信じることができる。「あそびの空間」で生きる力、夢を創造できる人間を育みます。

STEAM教育と岡部の遊具

STEAM教育とは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Art)、数学(Mathematics)の5つの分野を統合的に学ぶもので、理系や文系の枠を横断して学び、問題を見つける力や解決する力をはぐくむ学習です。
文部科学省もSTEAM教育を推し進めており、社会の急激な変化にともない求められる教育として積極的な取り組みが行われています。

STEAM教育のA=Artには、芸術やLiberal Arts(教養)の意味が含まれていますが、岡部ではその要素に遊具を加えました。STEAM教育で重要な、子どもが自分で発見したり発明したりできる「自発性」を引き出すような場、人間力を高める原体験ができる空間の創出を目指しています。

学校のイメージ
公園でかけっこする子ども

「あそび」についての産学協同研究

岡部では、子どもの遊びについて、産学協同研究プロジェクトを進めています。
金沢大学融合研究域融合科学系講師 有賀三夏先生のご協力のもと、多重知能理論とインクルーシブの考え方を採り入れた遊具を開発し、実際の遊びによる検証を行っています。
遊具が子どもたちの能力発達をうながすことを調査して、啓蒙することで、子どもたちの未来につながる遊具の必要性や価値を高めることを目指します。

Interview

子どもはいつか大人になる。
その「気づき」が
未来の社会を変えていく。

岡部が子どもの遊びを研究するプロジェクトを始めるきっかけは、何だったのでしょうか

岡部:私どもは、お子様に関係する施設の設計協力を多く手掛けています。そこでよく起こるのが、予算が合わなくなり、子どもが楽しめる遊具から削減されてしまうというケースです。
予算が足りなくなると設計段階で織り込まれていた子どものための遊具が削られていくことに、すごく疑問を感じまして。その理由として立てた仮説が、広く一般の方に遊具の価値を知っていただけていないからであろうというものでした。
よく公共工事の公園遊具に大規模なものを入れると、贅沢だとか、そんなものよりこっちにお金を回してくれという声が出ますが、それも同じ理由ではないかと思います。

まずは遊具の価値向上を図ること、遊具とは国にとって一番大事な「子ども」の成長に
寄与できるものなのだと知っていただきたいと思いました。
これはメーカーが一方的に発信してもなかなか信用していただけないことです。そこで、研究者の方々と共同で研究を行い、しっかりした証明データを元に、遊具の価値を発信して行くことに力を入れるようになりました。

有賀先生が岡部と共同研究するきっかけは何でしたか?

有賀:富山大学の澤先生からのご紹介です。私は以前、富山大学で非常勤で講義をさせていただいておりまして、澤先生にお会いしました。澤先生は身体・運動系の研究をされておられて、いろいろなお話を伺いました。いつか一緒に研究する機会があれば面白そうだねと話をしていたんです。 澤先生が岡部さんと一緒にお仕事をされていて、今回はそのご縁で繋いでいただきました。

岡部と取り組んでいる研究テーマはどのようなものですか?

有賀:私の研究は、ハーバード大学のハワード・ガードナー先生が提唱された多重知能理論を基盤として展開しているものです。多重知能理論における8つの知能を反映させ、遊具として形に取り入れ、子どもたちが遊べるもの、使えるものするという、おそらく日本で初めての試みに取り組ませていただきました。 海外ではいろいろな企業で多重知能理論を取り入れています。日本でも福祉や環境問題などに多種多様に応用できるのではないかと思います。
知能理論と聞くと難しいイメージがあるかもしれませんが、説明させていただいた後では「元気が出た」とか、「勇気をもらえた」と感想を頂くことが多いです。理論なのに不思議ですよね。岡部さんとの共同研究をきっかけにして、「多重知能理論」を多くの方々にも知っていただき、それぞれの現場で是非活用していただけたらと思います。

生きる力を持った子どもがつくる、未来の社会

研究で目指しているのは、どのようなことですか?

有賀:よく岡部社長ともお話するのですが、到達点は子どもたちの「生きる力を育む」ことだと考えています。 ですので、現在はそのために必要なものを岡部さんと開発しています。
生きる力をつけるために必要になるのは、体感による経験ですが、その力をつけるのは意外に大変です。今の時代では、思いっきり体を使って遊んだり、手で触ったり、見たり、聞いたりできる、そういった機会を得ることが難しくなってきてしまいました。 この研究では、子どもたちがそのような機会を得ることによって、何がどう変わっていくかを観察し、検証して行くことを目的としています。

岡部:今までの遊具でも、子どもの成長を促している部分はたくさんあります。違いは、今までのものは「こんなふうに遊んでね」という与えられるものだったのを、子どもたちが自分で発見できるような仕組みにかえていることです。そこが、今までと大きく違う点ですね。

設計して作られたものを、実際に検証してみて、またそれを反映していくというイメージですね。

有賀:はい、検証と反映を継続していくイメージです。 すぐに結果を出すというより、目的はもっと先にあります。優しくて強くてしなやかなこれからの良き世の中を作る人間を育んでいくことを目指しています。当たり前のことですが子どもはいつか大人になります。「生きる力」を持つこどもは、自分の生きる力をいつか良き社会のために活かす大人になるのではないでしょうか。

遊具だけでなく、遊びの場から考える

この研究によって、岡部の遊具づくりは、どのように変わったのでしょうか?

岡部:遊具はここ数十年、安全安心が最重要で作られてきました。その結果よく聞かれるのは「最近の遊具面白くないよね」という声です。
事故が起きると責任問題に問われるため、特に施設管理者さんはどうしても安全安心が重要になり、面白みがない遊具になっていきます。安心安全は大事で当たり前になっているなかで、これからはお子様の成長に役立てるような、遊具の価値を向上していく物が必要です。

また、有賀先生の多重知能理論もそうですが、私たちが考えるものはインクルーシブを必須の要素としています。
それは遊具単体で成し得ることはできなくて、そういう要素を持ったいろんな遊具の組み合わせで、空間自体を作り上げることが必要です。

社内でも、これまでのただ楽しく安全な遊具ではなく、楽しく、かつ、子どもがどのように使い成長していくか、というところに関心が高まるようになり、設計段階からその考え方が共有されています。

安心安全から、子どもの発育に重点がシフトしているのですね。

岡部:先ほどお名前が出た、富山大学の澤先生には、遊びの行動観察でご協力いただいています。その際に感じたのは、いろんな遊具のある中で、岡部の得意とするネット遊具などは、最近のお子さんの行動として減っている「掴む」動作がほんとうに多いんだな、ということです。
掴む動作は握力を強化し、指を使うことによって脳を刺激します。
今まで作っていた遊具はすごく良いものだったのだとわかり、自分たちの意識していなかった遊具の価値を感じることができました。
先生方の研究されている内容を知ることで、お子様の成長ににスポットを当てて遊具を作ることが、本当に価値を高めていくことにつながるのだなと気づくことができました。

自身の経験で、昔は自然の中で時間も忘れて夢中で遊んでしまい、暗くなっても帰ってこないと大騒動になったことがあって。いまは、そんな遊び方はできなくなりました。
ある程度安全に管理された中でも、それに近い、子どもにとって大事な体験ができるものが、どうしたらできるのか。
遊具だけでなく、水の流れをつくったり丘をつくったり、公園そのものの設計から、お子様の成長できる空間づくりが必要ではないのだろうかと。
そこで、将来の空間づくりを視野に入れ、遊具づくりの部署名を改めて「空間クリエイティブ部」という名称に変更しました。

遊具で感じたドラマチックな瞬間

有賀先生が岡部との取り組みで変わったこと、気づいたことはありますか?

有賀:変わったことや気付いたことというよりは、改めて感動したことはあります。今回岡部さんとお仕事をさせていただき、何もないところから遊具を作り出していく過程を拝見しました。まさか公園にある遊具は大人がとてつもない時間をもかけて作っているとは、 そこで遊ぶ子どもたちは想像できないことでしょう。今回、安全で楽しいというだけではなく、子どもたちにどのような夢を与えられるかという願いまでもが詰め込まれた遊具の制作過程に参加させていただいて、そのプロセスの重要さと丁寧さ、皆さんの志に改めて感激しました。
先ほど完成した遊具を拝見しましたが、紙の上でのやりとりから始まったものが、立体になって、その中に子どもたちが入って楽しそうに遊ぶ場面に立ち会うことができ、私も子どもの頃のようなワクワクした気持ちが想起されて心が踊りました。

子どもに関わる業界に今後求められるのは、どんなことでしょうか?

有賀:昨今の世の中では結果を重視するあまり、全ての成果の背後にあるプロセスを見過ごすことが多くなっていると思います。感性が豊かな子どもの頃に体験した出来事は、必ずその人間が形成される要素になります。安全で安心な世の中を創造していく大人になるためには、どのような環境で育ったかは重要なポイントになるでしょう。子どもに関わる業界に今後求められるのは、VUCAの時代を生き抜くために子どもたちに必要なスキルや知識を提供することだと思います。
だからこそ、子どもたちの生きる力を育てることに専念している企業は、まさに「未来」を創造していると言えます。子ども関連の事業は、人の一生に深く関わる重要な役割を担っていて、大切に守るべき仕事であると私は強く思います。

※ VUCAとは「Volatility(変動性)」、「Uncertainty(不確実性)」、「Complexity(複雑性)」、「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取った言葉で、先行きが不透明で将来の予測が困難な社会の特徴を表す。

「気づく」ことが未来を変えていく

岡部:私たちは企業理念に「明るい未来をつくり、幸せな社会を実現します」ということ、タグラインとして「We build tomorrow 明日を作る」と掲げています。
企業として、地域基盤の整備や除雪、災害対応といった下支えを行ったり、地域に貢献できる事業を土木事業、建築事業で行ったり、遊具事業では、これからの国を支えるのにいちばん大事な教育について、子どもたちが楽しく学べるものを作り出しています。

最近、就職活動で学生の方と面談していると、地域貢献やエコロジーにすごく敏感だなと感じます。それは、世代として中学生の頃にSDGsの情報に触れ、それを学んだことで意識がすごく高まっているんですね。
小さい頃の体験とか経験から学ぶことはすごく大事で、私たちの作る遊具も、大きな話をすると、この日本を作っているぐらいの感覚を持っていかないといけない。

社内では、遊具の事業は社員一人一人の幸せを実現できる事業であり、自分たちが思う以上に価値がある、将来の国を支える事業になっているんだと話しています。

遊具の価値がなかなか伝わっていないのは、残念ですね。

岡部:遊具もそうですが、土木や建設産業の他社さんも、たとえば地域に根ざしているという強い思いを持っているのに、そういう発信が非常に下手で、なかなか伝わっていかないことが多いんですよ。
今後は、岡部だけでなく業界全体として、上手に発信していくことが大事だと思っています。ただアピールしたいというのでなく、そうしないと理解を得られず、必要な公共投資についても無駄だという声が出てきます。

遊具には贅沢品という声があり、そのために価値向上の共同研究に取り組んでいるとお話ししましたが、それとともに、しっかり発信していくことも必要で、我々が取り組まなければいけないことなんだと感じています。

有賀:気づきは非常に重要だと思います。情報を共有することから始めることで、人々の考え方が変わり、それによって社会も変化していくと思います。この研究や活動を通じて、子どもの成長を支える遊具や空間の価値について多くの情報を発信し、より多くの人にその重要性に気づいてもらいたいです。