集客増に絶大な効果をもたらす「民設公営」の画期的な遊び場。
大型商業施設が目指す、地域に根差した未来のモール像とは。
2023年3月にオープンした、宮城県名取市のイオンモール名取内にある「なとりぱーく」。全館の大規模リニューアルにあわせてイオンモールが設置し、運営を名取市が行う、屋内の大型キッズスペースです。名取市初となる民設公営型を採用し、官民連携による子育て支援の取組でも注目を集めています。
(株)岡部では、「なとりぱーく」のシンボルとなる大型ネット遊具の設計から制作・施工までを一貫して担当しました。導入の経緯と成果、そしてプロジェクトでのエピソードについて、イオンモール名取のゼネラルマネージャーである八幡啓渡様に、(株)岡部空間クリエイティブ部の渡邉(営業担当)と青山(施工担当)がお話をうかがいました。
地域の綿密な調査から始まったチャレンジ
──まず、リニューアルオープンした際のご感想をお聞かせください。
八幡:本当に「やっとできたな」という気持ちでした。3年ほど前に着任してからずっと進めてきた計画でしたが、最後の工期が非常に厳しかったため、完成した時は、心底ほっとしたというのが正直なところです。高いところから電車が見えるようにしたい、この角度でスライダーを作りたいといった、自分の思いが、計画通りに形になったのを見て感動しました。
──この大規模な遊具施設導入のきっかけはなんでしたか?
八幡:私が着任した際、まず始めたのが、この名取市という土地の調査です。この地域にはどんな人たちが住んでいて、今後どのような人口動態になるのか、小学校の生徒数やマンションの建設計画まで全て調べました。その結果、この地域は子育て世代が多く、今後も住宅が増加していく見通しがあることが分かりました。
市長とも何度も話し合い、 「子育て世代の人たちがもっと居住してくれるような地域にしたい」という市の考えがあること、子育て世代に楽しんでもらえるモールにするための手段の一つとして、両者で導入を決めました。
──この施設に求めていた効果はどのようなものですか?
八幡:「目的来店」です。買い物ついでにちょっと遊ぶのではなく、「あそこに行きたい、あの遊び場に行きたいから、ここに来る」となるものを作りたかった。そのためには、ある程度お金をかける必要があると思っていました。
今回のリニューアルで発信したかったメッセージは、「我々は子育て世代の方々を応援しているモールです」というもので、シンボリックなものを作ろうと考えました。
120%超の大きな集客効果と利用者からの反響
──オープンから半年ほど経ちましたが、ご利用者様の反響、人気の度合いはいかがでしょうか?
八幡:非常に順調ですね。先日で利用者は10万人を突破しました。特に今年は暑かったので、暑い時に室内で遊べて、しかも無料の遊び場、という点で高く評価されているのだと思います。
現在までの検証では、想像よりも上を行っていると感じています。館全体の入館客数は現在120%ほどに伸びていて、これは岡部さんに作ってもらった遊具施設と、全体的なリニューアル(店舗入れ替えなど)の相乗効果だと思っています。半期では売上に対しての利益も計画より上振れています。他のイオンモールと比べても、120%という伸び率は異例であり、非常に調子が良い状況です。
──遊び場の導入で、モール全体の雰囲気や客層に変化はありましたか?
八幡:ベビーカーのお客様が明らかに増えました。従業員全員が口を揃えて言うほどで、巡回していても増えている感覚があるので、狙い通りだったと思います。また、今回の成功は、遊具だけでなく、フードコートに子育て世代向けのベビー席を設置、授乳室の改修、そして当モールのエレベーターが16機あるという、ハード面の優位性をさらに磨き上げたことによって実現したと考えています。
「ドキドキするような遊具」を作りたかった
──「民設公営」という初の取り組みで、特に難しかった点は何ですか?
八幡:市長をはじめとする名取市の皆様とは、かなり頻繁にお会いして、話し合いながら調整を進めていきました。
一番難しかったのはスケジュールの問題です。多くの施工業者と作った「なとりパーク」は、スケジュール調整が難しく、綱渡りのような状況でした。本当にオープン予定に間に合うのか、怖かったですね。
民設公営にこだわったのには、理由があります。市が施設を作った場合、10年や15年という期間では、遊具を変えたり、新しくしたりすることは、難しいと思います。しかし、子どもは10年も経てば成長するし、次に来る子どもたちが、古くなった遊具で今のように楽しめるとは限りません。民間のイオンモールが施設をつくれば、変えたいと思った時に変えられる、リニューアルができるメリットがあります。
もちろん、市にとっても、高額な設置費用を負担することなく、市民が利用できる施設ができるのは、非常に大きなメリットだと思います。
──岡部を選定されたきっかけ、他に比較した会社はありましたか?
八幡:当初から、最寄り駅からの入り口の吹き抜けに、何かシンボルになるものを作りたいと思っていて、高さのある空間にネットが張り巡らされている遊び場があったら楽しいな、という明確なイメージがありました。シンガポールのチャンギ空港直結の複合施設「Jewel(ジュエル)」にあるバウンシングというトランポリンのようなネット遊具を見ていて、そういうドキドキするようなものを作りたかったので、まずネット遊具で探してみたところ、岡部さんがすぐにヒットしました。
他社からも提案をいただいて、検討したところもありましたが、「構造体は鉄の支柱が必要となる」といった提案内容でした。私のビジョンは、見通しを保ちながら、ネットで空中に浮いてユラユラしている感じを求めていたので、少し方向性が異なっていました。岡部さんは、こちらのイメージを理解して提案してくれましたし、難しい設計も実現できる技術力があります。ネット遊具での実績や安全面での保証もしっかりしていたので、依頼することにしました。
具体的な要望のおかげで完成度が高まった
──制作期間や施工中のエピソードで印象に残っていることはありますか?
八幡:乗り込み日(作業初日)が遅れるという連絡を受けた時は、「本当に間に合うんですかね?」と他の施工会社の担当者に個別に聞いて回ったほど、本当に焦りました。
渡邉:この難しい現場ができるのは青山さんしかいない、と施工を担当してもらったのですが、前の現場スケジュールがぎりぎりで、さらに最初に聞いた工期より予定が1ヶ月縮まったという事情が重なってしまって、ご心配をおかけしました。
青山:岡部が上部のネットを施工した後、床部分の施工を各社様が行う流れでした。イオンモール様をはじめ、別途業者の方々に協力いただいたおかげでオープンに間に合わせることができました。
──設計面ではどのようなこだわりがありましたか?
八幡:デザイン段階では、テナント様のサインが隠れて見えないと困るといった点、隣接する駅から窓越しに子どもが遊んでいるのが見えるようにしたい、階段をもう少し見せたい、滑り台から降りてくる子どもの笑顔がメイン通路の方から見えるようにしたい、といった具体的な要望を、いろいろと出しました。
渡邉:具体的なイメージを伝えていただけたので、絵にもしやすかったですし、お任せされてしまうよりも、やりやすかったです。インスタ映えのポイントなど、こちらで提案させてもらった点もありますが、イオンモール様として必要な配慮(テナントサインを隠さないなど)については、逆に勉強になりました。
青山:一緒にやらせていただいたことで、岡部にとっても、また新しいノウハウが蓄積されたと感じています。
これからの地方都市で商業施設ができること
──今後、岡部に対して期待されることはありますか?
八幡:今はメンテナンス等で助けていただいていますが、私たちは、10年15年経っても同じものでいるつもりはないので、今後もニーズに合わせて遊具を更新していく際に、ぜひご協力いただきたいです。
──最後に、イオンモール名取として、この地域にどのような影響を与えていきたいとお考えですか?
八幡:名取市は今後5年以内に5,000人規模の住宅街区ができる予定があり、人口が増え続ける地域です。次に来る世代にも対応できるよう、我々イオンモールも合わせていかなければなりません。
宮城県では仙台の人でも、就職で東京に行ってしまうことが多いんです。若者が地元で就職して、地元に残ることで人口が増え続けていくという、地方都市が理想とする未来。商業施設があるということが、地元に残りたい理由の一つになる、地方の活性化に貢献する一助になれたらと考えています。
イオンモールは企業として、子育て世代の支援は非常に重要だと捉えています。異常気象や猛暑が続く現代において、屋外ではなく室内の遊び場を確保していくことも、大事な支援の一つです。今回の「なとりぱーく」は、子育て支援の「民設公営」という取り組みとして、イオン全体で注目されるの成功事例となりました。
今後も行政と連携し、行政機能の受け入れなども視野に入れながら、地域社会に貢献する企業として、次世代の暮らしを支えていきたいと考えています。